まず把握すべき内定辞退の現状データ

内定辞退の防止策を考えるうえで、まずは業界全体の動向を把握する必要があります。感覚的な議論ではなく、数値に基づいて自社の立ち位置を確認することが重要だからです。ここでは新卒と中途、それぞれの内定辞退率の実態を整理し、売り手市場が辞退をどう変化させているかを解説します。
新卒採用における内定辞退率の推移(直近データ)
新卒採用における内定辞退率は、年々高水準で推移しています。就職みらい研究所の「就職プロセス調査」によれば、2025年卒の卒業時点の内定辞退率は63.8%に達しました。さらに2026年卒についても、2025年6月時点で内定辞退率53.9%と、前年同月から大きな変化は見られません。
背景には、ひとり当たりの内定取得企業数の増加があります。25年卒の平均内定取得数は2.64社、内定辞退企業数は1.61社という結果でした。学生の多くが複数社から内定を得たうえで、本命1社に絞り込んでいる構図がうかがえます。大手企業に目を向けると、従業員1,000人以上5,000人未満で平均42.2人もの辞退が発生。5,000人以上規模では、平均91.4人にまで達しているのが実態です。
中途採用における内定辞退率の現状
中途採用の内定辞退率は、新卒に比べると低めの水準にあります。マイナビの「中途採用状況調査(2025年版)」では、中途採用の内定辞退率は約9.3%と報告されました。一見すると低い数字に思えるかもしれません。
しかし、即戦力人材を巡る獲得競争は年々激化しています。エンジニアや管理職クラスのポジションでは、辞退率がさらに高くなるケースも珍しくありません。中途採用の場合、母数こそ少ないものの、1名の辞退が事業計画に与えるインパクトは大きくなります。ピンポイントで採用したい人材だからこそ、防止策の重要度はむしろ高いといえます。
売り手市場の加速が「辞退の当たり前化」を生んでいる
内定辞退率が高止まりしている根本的な原因は、少子高齢化を背景とした売り手市場の加速にあります。企業の採用充足率は2014年以降は低水準が続き、各社が早期選考と早期内定で人材確保に動く構図が定着しました。
早期内定を獲得した学生は、入社まで1年以上の猶予を持つことになります。その間に他社と比較したり、家族や大学からの助言を踏まえて進路を再検討したりするケースも少なくありません。また中途市場でも複数オファーを比較するのが当たり前の時代となりました。構造的な要因を理解したうえで対策を講じる視点が、これからの採用担当者には強く求められます。
内定辞退の原因を構造別に整理する

内定辞退の原因は、選考前から内定後まで複数のフェーズに分散しています。「フォロー不足が原因」と単純化してしまうと、本質的な改善には繋がりません。本章では辞退を引き起こす要因を6つに分類しつつ、それぞれの発生背景や失敗パターンを整理していきます。
原因1|他社への志望順位が当初から高かった(選考前のミスマッチ)
最も根本的な辞退要因は、選考に進んだ時点ですでに他社の志望順位が高かったというパターンです。候補者が「滑り止め」として応募していた場合、本命の内定が出た瞬間に辞退の判断は固まります。
この問題が起きやすいのは、母集団形成の段階でターゲット設計が曖昧な企業です。たとえばナビ媒体に出稿して幅広く応募を集めるアプローチでは、自社にマッチしない層も含まれます。スカウト型採用への切り替えや自社の世界観を発信する工夫が、選考前ミスマッチの抑制につながります。
原因2|選考・面接プロセスで企業の印象が低下した(接点品質の問題)
選考プロセスのなかで企業に対する印象が悪化し、それが辞退に直結するケースも多く見られます。具体的には、面接官の高圧的な態度やレスポンスの遅さ、不誠実な対応などが挙げられます。候補者にとって面接官は「企業の顔」そのものです。一度マイナスの印象を持たれると、その記憶は最後まで残り続けます。
よくある失敗パターンは、現場の管理職が研修を受けないまま自己流で面接を行うケースです。質問が場当たり的になったり値踏みするような態度を取ったりすると、その瞬間に志望度は下がります。面接官トレーニングや評価基準の統一は、軽視されがちな割に効果が大きい施策です。
原因3|内定後のフォロー不足が不安を増幅させた(内定後管理の問題)
内定を出した後の連絡が途絶える、いわゆる「内定ブルー」を放置する企業は、辞退率が高くなる傾向にあります。候補者は内定を受諾した後も、本当にこの会社で良いのかと迷い続けるものです。その不安を解消する接点がなければ、徐々に気持ちは離れていきます。
よくある失敗パターンは、内定通知後に承諾書を送付しただけで入社まで連絡を取らない放置型です。できるだけ月1回程度の個別連絡や面談、社員との交流機会を継続的に設定しましょう。特に新卒採用では、内定から入社まで半年以上の期間が空くため、フォローの頻度と質が辞退率を左右します。
原因4|条件・待遇の比較で他社に負けた(条件競争力の問題)
給与・福利厚生・勤務地などの条件面で他社に劣り、最終局面で辞退されるパターンもあります。特に中途採用では、希望年収を上回るオファーを出せるかが分かれ目になりがちです。新卒採用でも、初任給の引き上げ競争が激化するなかで相場感が問われています。
よくある失敗パターンは、自社の給与水準を業界平均と比較せず過去の社内基準だけで条件を提示するケースです。どうしても条件面で勝てない場合は、成長機会や裁量権など金銭以外の価値も言語化し、提示時のメッセージに織り込む工夫が必要となります。
原因5|企業情報の開示不足によるイメージギャップ(情報設計の問題)
選考過程で得られる情報が不足しており、候補者の頭のなかでイメージギャップが膨らんでいくケースも辞退の温床になります。コーポレートサイトの情報が古かったり、社員の声がなかったりすると、候補者は不安なまま意思決定を迫られます。
よくある失敗パターンは、求人票の内容だけで判断材料が完結してしまうケースです。特に設立から年月が浅いスタートアップや、BtoB事業で世間的な知名度が低い企業ほど、情報開示の重要性は高まります。SNSやオウンドメディアを通じて自社の世界観を継続的に発信する取り組みが、イメージギャップ解消の鍵となります。
原因6|内定から入社までの期間が長く、気持ちが揺らいだ(時間軸の問題)
特に新卒採用では、内定から入社までの期間が長すぎることが辞退の一因となります。25年卒では卒業前年2月までに初めて内定を取得した学生が40.3%にのぼっており、約4割の学生に1年以上の待機期間が発生している状況です。
よくある失敗パターンは、企業側が承諾を確定したものと捉え、その後の関係構築を疎かにするケースです。中途採用でも、入社まで2〜3カ月のブランクがある場合、現職からの引き留めリスクなどを無視できません。時間軸を意識した接点設計が重要となります。
新卒と中途、内定辞退の原因はここが違う

内定辞退の原因は新卒と中途で重なる部分も多いものの、それぞれ特有の要因も存在します。同じアプローチで対策を講じても、効果が出にくいのはこのためです。ここでは新卒と中途、それぞれに固有の辞退要因を整理しつつ、両者に共通する構造的な問題にも触れていきます。
新卒特有の要因|「親の意見」「同期の存在」「社会人への漠然とした不安」
新卒採用ならではの辞退要因として、まず挙げられるのが「親の意見」です。近年は「オヤカク」と呼ばれる、内定承諾前に親の意向を確認する取り組みが企業側で広まりました。学生にとって親は最も身近な相談相手であり、業界の知名度や安定性で意見が出されると判断に大きく影響します。
次に大きいのが「同期の存在」です。SNSや就活コミュニティを通じて、同期がどんな企業に内定を取ったかを学生は常に把握しています。3つ目は「社会人への漠然とした不安」です。本当にやっていけるのか、配属先で活躍できるのかといった不安が、内定式以降に高まる学生は少なくありません。新卒採用では、本人だけでなく親や同期まで含めた接点設計が辞退防止につながります。
中途特有の要因|「現職からの引き留め」「年収・ポジション条件の最終比較」「転職リスクへの再検討」
中途採用で特に大きな辞退要因となるのが、現職からの引き留めです。内定承諾後に退職を申し出ると、上司や経営層から強力なカウンターオファーを受けるケースが珍しくありません。
次に挙げられるのが、年収・ポジション条件の最終比較です。複数社のオファーを並べて細部まで比較するため、わずかな差が決め手になります。最後は転職リスクへの再検討です。家族構成の変化や住宅ローンが頭をよぎり、保守的な判断に傾く候補者もいます。中途採用では、オファー提示後の「沈黙期間」が最も危険な時期となります。候補者の葛藤を想像し、適切なタイミングでフォローを入れることが重要です。
共通して起きている構造的な問題とは何か
新卒と中途、それぞれに固有の要因はあるものの、根底には共通する構造的な問題があります。それは「企業が候補者の意思決定プロセスを軽視している」という点です。候補者は内定を得た瞬間から、入社までの間に何度も自問自答を繰り返します。この心理プロセスに対して企業側が能動的に関与できていないと、候補者は自分一人で答えを出さざるを得ません。
もうひとつの共通要因は「採用情報の発信量と質の不足」です。新卒・中途を問わず、候補者目線の接点設計と情報発信の継続的な改善が辞退防止の本質といえます。
内定辞退が起きやすいタイミングと、その見極め方

内定辞退は、特定のタイミングに集中して発生しやすい傾向があります。このタイミングを事前に把握できれば、リスクの高い時期にフォローを集中投下することが可能です。
タイミング1|志望度上位の企業から内定が出たとき
最も大きな辞退リスクが発生するのは、候補者の志望度上位企業から内定が出たタイミングです。新卒であれば、本命企業の選考結果が出る時期に他社の内定保有者が大きく動きます。中途では、並行して進んでいた本命企業からのオファー提示が決定打になりがちです。
このリスクを下げるには、選考段階で候補者の志望度を正確に把握しておくことが欠かせません。たとえば最終面接前のカジュアル面談や、現場社員との座談会を設けることで、自社への熱量を高める仕掛けが可能になります。
タイミング2|承諾書・誓約書の締め切りが迫ったとき
内定承諾書や誓約書の提出期限が近づくタイミングも、辞退が発生しやすい局面です。候補者は提出期限を意思決定のデッドラインと捉え、最後の比較検討を行います。
このタイミングで企業側ができる対策は、締め切りまでに必要な情報を漏れなく提供することです。たとえば配属予定部署の詳細や入社後の研修プログラム、評価制度の詳細などを提示します。一方的なプレッシャーをかけるのは逆効果になりかねません。安心して判断できる材料を提供する姿勢が、承諾率を高める鍵になります。
タイミング3|内定後に「本当にここでいいのか」と悩み始めたとき
承諾書を提出した後でも、内定辞退は発生します。この時期は他社からの追加オファーやSNSの情報などが、内定者の心を揺さぶる要素になりがちです。対策としては、定期的な個別面談や内定者同士の交流イベントが有効でしょう。社員ランチや現場見学の機会を通じて、入社後のイメージを具体化させる取り組みも効果があります。表面的なやり取りでは見えない迷いを把握できれば、的確なフォローが可能になるはずです。
タイミング4|現職からの強い引き留めにあったとき(中途)
中途採用で特に注意すべきは、候補者が現職に退職を申し出たタイミングです。多くの企業では、優秀な人材の流出を防ぐためにカウンターオファーを提示します。年収の大幅引き上げや希望ポジションへの異動など、その手段は多様化しています。
このリスクに備えるには、内定承諾の段階で「現職からの引き留めが想定される」前提で話を進めるのが効果的です。退職交渉の進め方をアドバイスしたり入社準備のスケジュールを共有したりすることで、候補者の決意を後押しできます。
早期アラートをつかむための接点設計の考え方
辞退のタイミングを把握するだけでは不十分で、実際にアラートを早期に検知し、初動で対応できる仕組みが必要となります。アラート検知のポイントは、定期接点のなかで候補者の温度感の変化を察知することです。
具体的には、返信スピードの低下や面談での発言量の減少などが兆候として現れます。これらを察知するには、形式的な連絡ではなく、双方向の対話を継続できる接点設計が欠かせません。CRMツールで接点履歴を管理し、フォロー漏れを防ぐ仕組みも有効です。早期にアラートをつかみ、適切なフォローを入れることで、辞退の一歩手前で踏みとどまらせることができます。
自社の採用プロセスを診断する|辞退が起きやすい企業の共通パターン

内定辞退が頻発する企業には、いくつかの共通パターンが見られます。これらのパターンに自社が該当していないかを点検することは、改善の第一歩となるでしょう。
選考期間が長すぎて、他社に先を越される企業
選考開始から内定通知までの期間が長すぎる企業は、辞退率が高くなる傾向にあります。候補者の側からすると、待ち時間が長いほど他社の選考が先に進みます。本命だった企業のオファーを失う前に、別企業の内定を承諾せざるを得なくなるのです。改善策としては、面接回数の整理や書類選考の即日対応、合否連絡の迅速化などが挙げられます。プロセスを短縮するだけで、候補者の志望度を下げずに済むケースは少なくありません。
内定を出した後に連絡が途絶える企業
内定通知から入社までの間、候補者との接点が極端に少ない企業も辞退率が高くなります。承諾書を受領した安心感から、入社書類のやり取り以外で連絡を取らないというパターンです。
この間に候補者は、他社の情報や周囲の意見に影響されながら、自分の選択を再評価し続けるでしょう。連絡が途絶えると、企業側が自分への関心を失ったと感じる候補者もいます。改善には、月1回程度の個別連絡や四半期ごとの内定者イベントなどが効果的です。重要なのは、候補者一人ひとりの状況に合わせたコミュニケーションを継続することにあります。
面接官の質・対応にバラつきがある企業
面接官ごとに対応の質や評価基準が大きく異なる企業も、辞退リスクを抱えています。同じ候補者でも、面接官Aには高評価、面接官Bには冷淡な対応というケースが起きかねません。候補者は面接官の言動を通じて、企業文化や組織の質を判断するものです。
改善策としては、面接官研修の実施や評価シートの統一などが挙げられます。さらに、面接後の振り返り会を設け、面接官同士で評価基準をすり合わせる取り組みも効果的でしょう。面接の質を底上げできれば、候補者からの評価は変わります。
RJP(現実的な情報提供)が機能していない企業
RJP(Realistic Job Preview)とは、職務や組織の実情を、良い面も悪い面も含めて開示する考え方です。これが機能していない企業では、入社後ギャップによる早期離職と選考中の辞退の両方が発生します。
よくある失敗パターンは、自社の魅力的な側面ばかりを強調するケースです。候補者は入社後に「聞いていた話と違う」と感じ、信頼関係が崩れます。改善策は、社員インタビュー記事や現場見学を通じて、リアルな情報を継続的に発信することです。RJPの実装は、辞退防止だけでなく定着率向上にも寄与する重要な施策といえます。
学生・候補者の「不安」に無関心な企業
候補者が抱える不安に対して無関心な企業も、辞退率が高くなりがちです。特に新卒採用では、学生は社会人になることへの漠然とした不安や配属先への不安を抱えています。中途採用でも、新しい環境への適応や評価への不安は共通の課題です。
よくある失敗パターンは、内定者向けの説明会で一方的に情報を伝え、個別の不安に応える時間を設けないケースです。改善策として、1on1面談や内定者同士の座談会の開催などが挙げられます。不安を共有できる場があるだけで、候補者の心理的安定は大きく変わってきます。
内定辞退の原因別に講じるべき防止策

辞退の原因がフェーズごとに分散している以上、防止策もフェーズごとに分けて講じる必要があります。すべてを一度に変えるのは現実的ではないため、自社の課題に応じて優先順位をつけることが大切です。
選考前の対策|母集団の質とマッチング精度を上げる
選考前の段階で取り組むべきは、応募者の質を高める母集団形成です。応募数の確保を優先するあまり、ターゲット外の候補者を集めてしまうと、選考効率が下がるだけでなく辞退率も上がります。
まず取り組むべきは、採用ペルソナの明確化です。求めるスキルや経験、価値観を言語化し、社内で共有する取り組みが基盤になります。次に、ペルソナに合致する候補者にリーチできるチャネルを選定します。たとえばエンジニア採用ならエンジニア特化型のスカウト媒体、若手採用ならSNSを活用した動画コンテンツなどです。自社の世界観を発信し、共感した候補者だけが応募する設計にできれば、選考前ミスマッチは大幅に減らせます。
選考中の対策|面接官の質と接点品質を底上げする
選考中の対策として効果が大きいのは、面接官の質を底上げすることです。先述のとおり、面接官は企業の顔として候補者の印象を左右します。研修プログラムを通じて、評価基準の統一や適切な質問技法、候補者への向き合い方を共有するようにしましょう。さらに、面接の場を「選考」ではなく「相互理解の機会」として位置づけ直すことも重要です。
候補者からの質問に丁寧に答え、自社の魅力と課題の両方を伝えることで、信頼関係が築かれます。接点品質の改善は、応募から内定承諾までの一貫した体験設計として捉えるべき施策です。
内定後の対策|フォロープログラムを「やっている」から「機能している」に変える
内定後のフォローは、多くの企業が何らかの形で実施しています。しかし「やっている」ことと「機能している」ことは別物です。年に数回の内定者懇親会を開いただけで、辞退率が下がるわけではありません。
機能するフォロープログラムには、いくつかの共通点があります。まず、頻度と質のバランスです。月1回の個別連絡や四半期ごとのイベントなど、複数の接点を組み合わせます。次に、内定者一人ひとりの状況に応じた個別対応が必要です。さらに、配属予定部署のメンバーとの面談などを通じて、入社後の自分をイメージしてもらう設計も重要になります。
条件面の対策|オファーレターの内容と提示タイミングを見直す
条件面で他社に負けないオファーレターを設計することも、辞退防止には欠かせません。給与額の単純比較で勝てない場合でも、提示の仕方次第で印象は大きく変わります。まず取り組むべきは、オファーレターの内容の充実です。基本給だけでなく賞与や各種手当、福利厚生や研修制度、評価制度などを丁寧に記載します。次に、提示のタイミングを工夫します。さらに、オファー面談の場で経営層や役員が候補者にメッセージを伝えるのも効果的です。
情報開示の対策|自社の強みだけでなく課題もオープンにするRJP実装
情報開示の対策として、RJPの本格実装は重要なテーマです。自社の強みだけを伝えるのではなく、課題や改善途上の領域も含めて開示することが信頼につながります。
具体的な実装方法として、社員インタビュー記事の制作が挙げられます。仕事のやりがいだけでなく、苦労した経験や入社前後で感じたギャップなどを率直に語ってもらう内容が効果的です。SNSを活用した動画発信も有効な手段でしょう。職場の雰囲気や現場のリアルを可視化することで、候補者は入社後のイメージを具体化できます。RJPの実装は短期的な工数がかかるものの、辞退率の低減と定着率向上につながる投資だといえます。
内定辞退防止に成功している企業の実践事例

ここまで内定辞退の原因と防止策を体系的に整理してきました。しかし、理屈だけでは現場のイメージが湧きにくいかもしれません。本章では実際に内定辞退の防止や承諾率向上に成功している企業の事例を3つ取り上げます。
事例1|株式会社サントス|SNS動画で内定承諾率40%から80%へ向上
食品物流を担う株式会社サントスは、ドライバー採用に課題を抱えていました。採用チャネルがIndeed中心で経路が限定的なうえ、未経験入社後の離職率は30〜50%に達していたのです。
同社が着手したのは、SNSを活用した採用コミュニケーションの再設計です。TikTokとInstagramを中心に、仕事のリアルや職場の空気感をショート動画で可視化しました。月4本以上の動画制作と継続的な投稿を行うことで、応募者の質も向上。結果として、内定承諾率は40%から80%へと劇的に改善しました。応募数も約1.5倍に拡大し、HP流入数は約6倍に伸びています。
https://allhero.co.jp/works/santos-sns
事例2|HRクラウド株式会社|内定者プロジェクトで内定辞退率10%以下を維持
採用管理システム「採用一括かんりくん」を提供するHRクラウド株式会社は、ユニークな内定者フォローで知られています。同社が実施しているのが「内定者プロジェクト」と呼ばれる施策です。
内容は、内定者がチームを組んで就活生に向けた企業PR記事を作成し、それぞれの記事のPV数で競うというもの。このプロジェクトを通じて、内定者は事業や一緒に働く仲間への理解を深められます。さらに主体的に動ける環境が、自発性や積極性を引き出す効果も生み出します。プロジェクトの成果を発表する機会も設けられており、内定者は自分たちの活動が評価される経験を積めるのです。採用力の向上にも効果を発揮しており、同社の内定辞退率は毎年10%を切る水準を維持しています。
https://www.career-cloud.asia/media/follow-upofjoboffers
事例3|Sansan株式会社|選考UX設計の刷新で新卒エンジニア採用を18卒4名から21卒20名へ拡大
東証プライム上場のSaaS企業であるSansan株式会社は、新卒エンジニア採用に苦戦していました。競合にはメガベンチャーや外資系IT企業が並ぶ厳しい環境です。当初は内定承諾率が低く、他社から内定が出た場合にそちらを選択されてしまうケースが多発していました。
同社が着目したのは、選考が進むにつれて学生の意向を上げきれていない点でした。改善のために取り組んだのが、個別に合わせた選考体験の設計、いわゆる「採用におけるUX設計」です。学生一人ひとりにとって本当に大切なものは何か、理想の意思決定をするにはどんなアクションが必要かを徹底的に煮詰めました。結果として内定承諾率が劇的に改善し、新卒エンジニアの採用数は18卒4名から21卒20名へ大きく伸ばすことに成功しています。
https://sg.wantedly.com/customer_stories/163
内定辞退が起きたあとに、人事がすべきこと

どれだけ防止策を講じても、内定辞退をゼロにすることは現実的ではありません。重要なのは、辞退が発生したときに次の改善につなげる視点です。ここでは内定辞退の発生後に人事が取り組むべき3つのアクションを紹介します。
辞退理由のヒアリングをなぜ必ず実施すべきか
内定辞退が発生した際、最優先で取り組むべきは辞退理由の正確なヒアリングです。表面的な理由ではなく、本音に近い情報を引き出せるかが、その後の改善に直結します。
多くの企業では、辞退連絡を受けた段階で軽く理由を尋ねるだけで終わってしまいがちです。しかし、候補者からすると企業に気を遣って本音を伏せるケースが大半でしょう。本音を引き出すには、辞退連絡から少し時間を空けて改めて連絡を取るのが有効です。担当者ではなく第三者がヒアリングする方法もあります。「正直に話しても不利益はない」と感じてもらえる関係性が大切です。
辞退データを採用改善のインプットにする仕組みの作り方
ヒアリングで得た辞退理由は、データとして蓄積し採用改善のインプットに変えていく仕組みが必要です。個別の事例として扱うだけでは、組織としての学びにつながりません。
具体的には、辞退理由を選考前・選考中・内定後の各フェーズに分類し可視化していきます。集計を続けると、自社の採用プロセスのどこに弱点があるかが見えてくるでしょう。さらに、辞退データを定期的に経営層と共有することも大切です。CRMツールや採用管理システムを活用し、データの蓄積と分析を継続できる体制を作りましょう。
辞退を「損失」ではなく「診断情報」として捉える視点
最後に重要なのが、内定辞退に対する捉え方そのものを変えることです。多くの人事担当者は、辞退を採用コストの損失や採用計画の崩壊として捉えがちです。しかし長期的に見ると、辞退は自社の採用プロセスを診断するための貴重な情報源になります。
辞退した候補者は、自社のどこかに改善余地があると教えてくれている存在です。その声に耳を傾けると、選考プロセスの弱点や情報発信の不足など、内部では気づきにくい課題が浮き彫りになります。辞退を「失敗」として封じ込めるのではなく、組織として学習する機会と位置づけることが、長期的な採用力の強化につながります。
まとめ|内定辞退は防げる。ただし「構造」から直すことが前提
ここまで、内定辞退の現状データから原因や防止策、事後対応までを体系的に解説してきました。最も重要なメッセージは、内定辞退は決して運の問題ではないということです。原因は構造的に発生しており、選考前のターゲット設計や面接官の質や内定後のフォローなど、複数のフェーズに分散しています。それぞれの段階で課題を可視化し、優先順位をつけて対策を講じれば、辞退率は低減できます。
新卒・中途には固有の要因もありますが、根底にあるのは「候補者の意思決定にどこまで関与できるか」という共通の課題です。事例で紹介したように、SNSなどを活用した情報発信によって、内定承諾率を大きく改善している企業は実在します。自社の採用プロセスを構造から見直す視点が、辞退防止の出発点となります。
採用に関するご相談は、ぜひオールイン株式会社の「ストラテジンジ」までお問い合わせください。経営戦略から逆算したHR戦略の策定、母集団形成から内定承諾率向上まで、一気通貫でご支援いたします。