戦略人事とは?
戦略人事の定義(基本概念)
戦略人事とは、経営戦略や事業計画を実現するために、必要な人材像・人数・スキルを定義し、採用・育成・配置・評価を一貫して設計する人事のあり方。単なる運用ではなく、「人材が事業成長にどう貢献するか」から施策全体を組み立てます。
従来の人事との違い(オペレーション人事 vs 戦略人事)
従来の人事は、欠員補充や制度運用など、“日常業務を滞りなく回す”役割が中心でした。一方、戦略人事は経営と同じ目線に立ち、中長期の事業成長から逆算して人材を設計するのが特徴。
例えば採用一つをとっても、「今足りない人を採る」のではなく、「3年後に伸ばしたい事業に必要な人材を採る」という発想になります。育成や評価も同様で、“現状の課題対応”ではなく、“これからの勝ち筋づくり”として組み立てる。この視点の差が、採用の精度や育成の方向性、評価の納得感に差を生み、結果として組織の強さに大きな差が出てくるのです。
なぜ今「戦略人事」が重要なのか(市場変化・人材獲得競争・生産性低下)
戦略人事が注目されている背景には、企業を取り巻く環境の大きな変化があります。市場変化が早いほど、戦略の実行力は“人”で決まります。必要な人材の確保や育成が後手になると、やりたい戦略があっても実行する人がいない状態になりかねません。
さらに採用競争の激化により、限られた人材で成果を最大化する仕組みが求められている昨今。採用のみに頼らず、育成・配置・評価含め、限られた人材で成果を最大化する仕組みが必要になります。生産性やエンゲージメントが経営課題になる今、戦略人事は必須機能になりつつあります。
戦略人事が求められる背景(時代の変化)

少子高齢化による人材不足
生産年齢人口の減少により「採りたいのに採れない状況」が常態化し、人材確保そのものが経営課題に。重要なのは、採用だけで不足を埋めるのではなく、今いる人材の活用・育成・配置まで含めて設計すること。人材を“集める”から“活かす”へ視点を切り替える必要があり、その中心にあるのが戦略人事です。
リモートワーク・多様化による働き方の変化
リモートワークやフレックス制度の普及により、働く場所や時間の自由度は大きく広がりました。一方、顔を合わせる機会が減ったことで、コミュニケーションやチーム運営の難易度が上がったと感じている企業も多いはず。
出社前提の評価や管理手法のままでは、現場の納得感が下がり、頑張りが見えづらくなることも。戦略人事ではこうした変化を前提に、評価制度や目標設計、組織の運用まで見直し、成果が出る仕組みを整えていきます。
事業の変化スピードに対し人材育成が追いつかない
DX推進や新規事業の立ち上げなど、求められるスキルは年々広がり高度化していく一方で、必要人材を外部からすぐに確保できるとは限りません。
だからこそ、本当に必要なスキルを見極め、育成・学び直し(リスキリング)を事業戦略とセットで設計することが戦略人事の役割になってきています。
ジョブ型雇用の普及
職務(ジョブ)を基準に人材採用をするジョブ型雇用が広がるにつれ、「どんな仕事を担い、どんな成果を出してもらう役割なのか」を明確にする流れが強まっています。
このとき重要になるのが、職務定義や役割設計、必要スキルの言語化。ここが曖昧だと採用基準や育成方針がぶれ、ミスマッチ・評価不満につながります。戦略人事では要件を整理し、人材の配置・育成・評価までつなげることで、組織の再現性を向上させます。
戦略人事の役割(企業成長にどう貢献するか)

経営戦略と人材戦略の結びつけ
戦略人事ではまず、中期経営計画や事業方針、今後伸ばしたい領域を踏まえたうえで、「必要な人材像」「必要人数」「求められるスキル・経験」を具体化します。さらに、それを採用計画や育成計画、配置の方針に落とし込み、現場が実行できる形にするところまでを担います。経営の意図を、人材施策として実行可能な形に翻訳する役割です。
人材ポートフォリオの設計
すべての社員を同じ方法で育成し、同じように活かそうとしても、組織は強くなりません。事業の状況や役割によって、必要な人材も優先順位も変わるからです。そこで重要になるのが、人材ポートフォリオの考え方。戦略人事では、求める役割や将来性の観点から人材を整理し、投資配分や補強ポイントを明確にします。これにより、限られたリソースでも、優先順位をつけて人材戦略を進められるようになります。
採用・育成・評価の一貫した仕組みづくり
戦略人事でよくある盲点が、採用・育成・評価がそれぞれ別の考え方で動いてしまうこと。ここにズレがあると、社員はどこに向かって成長すればよいのかわからなくなります。戦略人事が目指すのは、採用から育成、評価までが一本の線でつながっている状態。どんな人材を採りたいのか、どんな経験を積ませるのか、どんな行動や成果を評価するのか。これらを一貫した考え方で設計することで、社員の納得感が高まり、組織としても再現性のある成長が可能になります。
社員のパフォーマンス最大化
採用が難しい時代だからこそ、今いる人材の力を最大限に引き出すことが企業成長のカギになります。戦略人事が担うのは、適切な配置や役割設計・評価の納得感づくり・成長機会の提供など、社員が活躍し続けられる環境を整えること。強みが活きる配置になっているか、挑戦と支援のバランスが取れているか。こうした設計の積み重ねで、組織全体の生産性やエンゲージメントが底上げされていきます。
リスキリングやDX人材の育成支援
戦略人事では「今いる人材をどう成長させるか」までを経営とセットで考えます。ポイントは、単発の研修で終わらせないこと。どの領域でどんなスキルが必要になり、誰にどんな学びや経験を積ませるのか。育成を“イベント”ではなく“仕組み”として設計していくことが求められます。リスキリングやDX人材育成は、現場任せにするのではなく、戦略人事が旗を振って中長期で推進するテーマになっています。
戦略人事を実現するための4つの柱【フレームワーク】

とはいえ、結局どこから着手すべきなの?と疑問に感じるかもしれません。実務では「採用・組織・人材活用・制度」の4領域に分け、課題が大きいところから優先して整えると進めやすくなります。
ここでは、戦略人事を形にするための4つの柱を紹介します。
① 採用戦略の設計
戦略人事における採用は、単に人手不足を埋めるためのものではありません。重要なのは、事業戦略を踏まえて「必要人材」を定義すること。役割や期待成果、求めるスキルやスタンスが曖昧なままでは、判断が属人的になり、ミスマッチが起こりやすくなります。
また採用がうまくいかない原因には、組織側の課題が影響しているケースも。これらを可視化した上で、「なぜ採れないのか」「なぜ定着しないのか」を整理し、打ち手を設計していきましょう。
② 組織開発
どれだけ優秀な人材を採用しても、組織の土台が整っていなければ力は発揮されません。組織開発の目的は、社員が前向きに働き、力を発揮しやすい環境をつくることにあります。
具体的には、エンゲージメント向上に向けた取り組みや、組織として大切にしたい価値観・行動指針の言語化など。これらを一度作って終わりではなく、日々のマネジメントや評価、コミュニケーションを通じて浸透させていくことが重要になります。
③ タレントマネジメント
タレントマネジメントは、「誰が、どんな強みやスキルを持っているのか」を可視化し、組織として活かしていくための取り組み。社員一人ひとりのスキルや実績を整理し、適切な配置や育成につながります。特に重要なのが、成果を上げている人材の特徴を分析すること。ハイパフォーマーの行動や経験を紐解くことで、再現性のある育成や配置が可能になり、組織全体の底上げにつながっていきます。
④ 人事制度設計
等級・評価・報酬といった人事制度設計は、社員の行動や意思決定に大きな影響を与える仕組みです。
事業として目指す方向性と、人事制度が噛み合っているか。社員にとって納得感のある仕組みになっているか。こうした視点で制度を設計・見直すことで、人事制度は初めて“戦略を動かす装置”として機能します。
戦略人事が具体的に取り組む施策一覧

戦略人事の施策は多岐にわたりますが、目的は共通して「必要な人材を定義し、活かし、成果につなげる仕組みを作る」ことです。ここでは代表的な施策を紹介します。
人材育成計画の立案
事業戦略や将来の組織像を踏まえ、「どんなスキルを、いつまでに、誰に身につけてもらうか」を整理します。場当たり的な研修ではなく、中長期視点で育成の道筋を描くことが、戦略人事における育成のポイントです。
DX・データ活用の推進
人事業務の効率化だけでなく、意思決定の質を高めるためにDXやデータ活用を進めます。勘や経験に頼らず、データをもとに人材配置や施策判断ができる状態を目指します。
ピープルアナリティクス
ピープルアナリティクスとは、人事に関するデータを分析して、組織課題の原因や打ち手を見える化する手法のこと。採用、評価、配置、離職などのデータを分析し、感覚的だった人事判断を根拠のある判断へと変えていきます。「なぜ辞めるのか」「なぜ成果に差が出るのか」といった問いに対して、改善のヒントを得られるのが特徴です。
採用戦略・ブランディング
「どんな会社で、どんな人材を求めているのか」を一貫したメッセージとして発信します。採用ブランディングを強化することで、ミスマッチを減らし、採用の質を高めることにつながります。
マネジメント研修の体系化
マネージャーの力量は、組織の成果やエンゲージメントに直結します。属人的になりがちなマネジメントを言語化・体系化し、再現性のある育成を行ないます。
エンゲージメントサーベイの導入
エンゲージメントサーベイとは、社員の働きがいや組織への愛着、職場環境への満足度などを定期的に測るアンケートのこと。社員の状態や組織の課題を継続的に把握するための手段として活用します。結果を分析し、改善アクションにつなげることで、エンゲージメント向上と定着率改善を図ります。
戦略人事の成功事例

戦略人事の進め方は企業規模によって変わります。ここでは、よくある課題と改善の流れを規模別に紹介します。
大企業の場合:タレントマネジメントシステムの活用
複数事業・複数拠点を展開する大企業では、人材情報が部門ごとに分断され、全社視点での人材活用が進まないという課題を抱えていました。個人のスキルや経験を把握しきれず、配置や育成の判断は現場任せに。
そこで戦略人事の一環として、タレントマネジメントシステムを導入。スキル・経歴・評価・キャリア志向などの情報を一元管理し、データをもとに配置や育成方針を検討できる体制を整えました。結果、適材適所の配置が進み、育成投資の優先順位も明確に。人材活用の精度が高まり、事業間の連携や人材循環もスムーズになりました。
中堅企業の場合:評価制度改革で離職率改善
成長期にある中堅企業では、「評価の基準がわかりにくい」「上司によって評価が違う」といった不満が積み重なり、離職率の高さが課題に。評価制度自体は存在していましたが、求める行動や成果が曖昧で、運用が属人的になっていたのです。
そこで、制度を全面的に見直し。事業戦略と紐づけた評価軸を設定し、評価基準やプロセスを明確化して、マネージャーへの説明や運用フォローも丁寧に行ないました。結果、社員の評価への納得感が高まり、離職率が改善。社員が「何を期待されているのか」を理解したうえで行動できるようになりました。
中小企業の場合:採用基準の統一でミスマッチ削減
中小企業では、採用を現場主導で行っていたため、部署や面接官ごとに判断基準がバラバラに。スキルは合っていても、価値観や働き方が合わず、入社後にギャップを感じて早期離職につながるケースが少なくありませんでした。
そこで経営・人事・現場で一緒に「自社が本当に求める人物像」を再整理。採用基準を言語化し、選考時の見るポイントを統一しました。結果、採用時の判断が揃い、入社後のミスマッチが減少。定着率の向上と、現場の採用に対する納得感アップにもつながりました。
戦略人事のメリット・デメリット

メリット
戦略人事のメリットは、経営の方向性と人材施策がつながり、組織全体の方向性が揃いやすくなることです。採用・育成・評価が連動すると社員の納得感が上がり、成果が出るまでの再現性も高まります。
また、必要な人材像が明確になることで、人材投資の配分が判断しやすくなり、限られた予算でも効果を出しやすくなります。結果として、生産性の向上やエンゲージメント改善にもつながり、組織が安定して成果を出せる状態をつくりやすくなります。
デメリット
一方で、戦略人事は取り組めばすぐに結果が出る“即効薬”ではありません。短期で成果が見えにくく、浸透まで時間がかかる点には注意が必要です。さらに経営理解やデータ活用など一定の専門性が求められ、経営層や現場を巻き込みながら進める力も欠かせません。また取り組みを進める中で、現場との摩擦が生じるケースも。結論を押しつけるのではなく、目的と背景を共有しながら合意形成を進める。この丁寧さが、戦略人事を“絵に描いた理想”で終わらせないポイントになります。
戦略人事を推進するために必要なスキル
ビジネス理解・経営視点
事業戦略を理解し、「人材をどう使えば事業が伸びるか」を考える視点です。採用・育成・配置を“人事の正しさ”ではなく、“事業の成果”から逆算して設計できるようになります。
データ活用(アナリティクス)
勘や経験だけに頼らず、採用・定着・評価などのデータから課題の仮説を立てる力です。数字を追うことではなく、「次に何を変えるべきか」を判断する材料として活用します。
コミュニケーション・ファシリテーション
戦略人事は、人事だけで完結しない取り組みです。経営・現場・管理職の意見を整理し、合意形成しながら前に進める“場づくり”が重要になります。
組織開発の知識
制度や仕組みを作るだけでは、組織は変わりません。心理的安全性・文化・マネジメントなど「人が動く条件」を理解し、変化を定着させる力が求められます。
外部パートナー(コンサル・HRBP)を活用する基準

リソースや専門性が不足している場合は、外部パートナーの力を借りることで、取り組みを前に進めやすくなります。ただし、どこまで任せるのかによって、選ぶべきパートナーや関わり方は大きく変わります。ここでは、代表的な活用パターンを紹介します。
戦略設計だけ外注する場合
経営戦略や事業方針を踏まえ、人材戦略の全体像を整理したい場合に向いているのがこのパターン。人材要件の定義や人事施策の優先順位付けなど、設計部分を第三者の視点で整理することで、社内の認識ズレを減らす効果があります。実行は自社で行える体制がある企業に適しています。
運用まで伴走してもらう場合
設計だけでなく、採用・制度運用・現場への落とし込みまで含めて支援してもらう形です。戦略人事は設計して終わりではなく、実行と改善の積み重ねが重要なため、社内リソースが限られている場合や、初めて取り組む場合に有効と言えます。
タレントマネジメントツールの選び方
ツールは導入自体が目的になりがちですが、本来は戦略人事を支える「手段」です。課題や運用体制に合った機能か、現場で使いこなせるかを重視し、必要以上に高機能なツールを選ばないことがポイントになります。導入後の運用設計まで含めて検討することが重要です。
よくある失敗例と対策
経営陣と人事で方向性がズレている
戦略人事は「経営戦略と人材戦略をつなぐ」取り組みなので、スタート地点で認識がズレていると、施策がうまく噛み合いません。たとえば経営は成長投資を前提にしているのに、人事はコスト削減を優先している、といった状態では実行力が落ちてしまいます。最初に合意形成のプロセスを設け、目的・優先順位・成功指標をすり合わせてから設計に入ることが重要です。
人事制度だけ整えて運用までフォローしない
制度を新しくしたのに、現場の運用が変わらず形骸化してしまう——これも非常に起こりがちな失敗です。評価基準を作っても、面談が実施されない、評価のばらつきが直らない、フィードバックが機能しない、といった状態では成果は出ません。制度とセットで、KPIや運用プロセス(誰が・いつ・何をするか)まで設計し、定着するまでフォローすることが欠かせません。
データ活用しないため改善できない
戦略人事は「やったかどうか」ではなく、「効いたかどうか」で改善していく必要があります。採用・定着・評価などのデータを見ずに進めると、課題の原因が特定できず、施策が打ちっぱなしになりがち。ピープルアナリティクスを取り入れ、事実ベースで仮説検証できる状態をつくることで、改善のスピードと精度が上がります。
まとめ|戦略人事は“人事の進化形”ではなく、企業成長の必須機能
戦略人事は、必要な人材像を定義し、採用・育成・配置・評価を一貫して設計することで、経営と人材をつなぐ取り組みです。環境変化が大きい今、限られた人材で成果を最大化するための土台として重要性が高まっています。
こうした戦略人事の考え方を、机上の設計で終わらせず「実行して成果につなげる」ところまで伴走するのが、当社オールインの採用コンサルティングサービス「ストラテジンジ」。人事のプロが貴社のパートナーとして、経営・採用戦略の整理から実務の推進まで一気通貫で支援します。
採用や人材の悩みは、企業ごとに状況も背景も異なります。貴社の状況を整理したうえで、戦略人事の視点から最適な進め方を一緒に考えます。無料相談にて、お気軽にご相談をお待ちしております。